映像論 第11回 プレビズ(Pre Visualization/Pre-Vis/Pre-Viz)とは?

本日は、第11回目です。

プレビズ/プリビズ/プレビジュアリゼーション
Pre-Vis/Pre-Viz/Pre-Visualization

今日はプレビズに関する話です。プレビズはここ20年くらいの間にハリウッド映画を中心に普及してきました。一方では日本をはじめ、アジア圏の映画製作やCM制作ではなかなか実際にプレビズ作業をおこなうことが困難な状況もあります。それらの状況を踏まえたう上で、プレビズの歴史とその目的、意義に関して話をしていきたいと思います。

その前に、ざっと実写映像制作のワークフローを示しておきます。もう確実なものにしておいてくださいね。

プレビズの歴史的背景

アニマティクス Animatics

プレビズは、元々はアニマティクス Animaticsと呼ばれ、1980年代から作られるようになっていきました。

その目的は、絵コンテでは理解やイメージを伝えられない『カット割り』、『動き』や『スピード感』を示すための、言わば 動くコンテビデオコンテ としての役割でした。特にCGやVFXなどの複雑なショット、シーケンスがあるシーンに限ってこのアニマティクスが作られました。

撮影前に再現、シミュレーション = ビデオコンテ的

photomatics 写真、紙を動かす
cinematics photomaticsと同じ?
animatics アニメーション、絵コンテを動かす

そのため、当初は、絵コンテを切り張りした紙や人形であることが多かったようです。

『スター・ウォーズエピソードVI-ジェダイの復讐-』(1983)では、ジョージ・ルーカスが設立したVFX工房ILM(Industrial Light & Magic)の中でXウイングのシーンなどをCGを使うことを実験しながらアニマティクスを検討していきました。有名なのは森林内を疾走するスピーダーバイクのシーンです。ビデオ撮影をしながら、人形を使ったアニマティクスを行っています。

『スター・ウォーズエピソードVI-ジェダイの復讐-』(1983) Speederbike Animatic Comparison

※最下段にある昨年のオンライン授業を参照のこと(16:40~)

メイキング 04:30~

メイキングインタビュー デニス・ミューレン

実際の映像

プレビズはその初期の段階ではフルCGのシーンを簡易な形状モデルで再現して、やはりカメラワーク、カット割りなどの検討に利用していました。その工程をアニマティクスと呼びます。

アニマティクスはあくまでも絵コンテの延長上にあり、重要なCGやVFXなどの合成カットのみ作られました。それは目的の多くがポスプロのCGやVFXスタッフの確認のためだったからです。

80年代、90年代のハリウッド映画の多くにアニマティクスが作られました。当時のDVDやBDの特典映像にアニマティクスが入っているケースがたくさん見られます。

「ジャッジ・ドレッド」(1992) ダニー・キャノン監督

「ジュラシックパーク」(1993) スティーブン・スピルバーグ監督

「ミッションインポッシブル」(1996) ブライアン・デ・パルマ監督

あたりとされていますが、その使われ方も全体のごく一部分のみだったと思われます。

『スター・ウォーズエピソード1』(1999)以降、映画の中で、アニマティクスがかなり使われ始めています。CGIやVFXが多く取り入れられている映像では、スタッフの共通のイメージや確認のために必要です。

それが映画の中の一部分のみの作成から映画全体に発展していきます。

現在のプレビズがプレビズという名前で映画に使われるようになったのは、1990年代後半になってからだと言えます。

JAK Filmsの設立

その大きなきっかけになったのが、前述したジョージ・ルーカス率いるVFX工房ILMです。

ILM『インダストリアル・ライト・アンド・マジック』

いかにもジョージ・ルーカスらしい名前の付け方です。技術の上に立って光と手品で映像を作り出す。この名前にはそんな意味が込められているのかもしれません。

実際に彼が手掛けた技術の数々は、デジタル編集、映画音響技術、合成技術、モーションコントロール技術、アニマティクス、モーフィング、ペイントシステム、など現在の映像技術のルーツになる部分がたくさんあります。

STAR WARS CHANGED THE WORLD -スターウォーズはいかに映像業界を変えていったか-
こうやってみるとジョージルーカスがスターウォーズを作ったことでその後の映画、映像産業、技術、表現に大きな影響を与えていることが分かります

ジョージ・ルーカスは90年代後半から、新しい「スターウォーズ」シリーズを制作する準備のため、1996年頃ルーカスフィルムの敷地内にあるスカイウォーカー・ランチSkywalker Ranchの中にJAK Filmsという世界で始めてプレビズ専用の子会社を設立しました。そして「Mission Impossible III」(2006)に着手します。それは新しいプリプロダクションでのCGを用いたシミュレーションの模索であり、ワークフローの開発への挑戦でもありました。このJAK Filmsはスカイウォーカー・ランチのちょうど3階に位置していたことから、のちにプレビズ会社として独立したThe Third Floorはここから名前を取っています。

スカイウォーカーランチ (Skywalker Ranch)


現在でもJAKフィルム出身のプレビズ会社は、The Third Floor以外にもHALONなどが挙げられます。

『スター・ウォーズエピソード3 シスの復讐』(2005)
JAKフィルムは、ここでいくつかの重要なプレビズを任されます。それは全部で500ショット余りのショットを3週間で仕上げるという荒技をやってのけたそうです。
プレビズのアーチストたちは、それまでCG/VFXのスタジオが分業制で細かく作業が区分けされているのに対して、全体を見渡したり、合成やエフェクトのこと、撮影でのフレーミングやショットのつなぎなども考えるという非常にエキサイティングな体験が出来たことに感激したそうです。その体験は非常に重要でした。

 

最近のCGはいわゆる3DCGの枠に留まらず実写との合成や、VFXなどのスペシャルエフェクトとのからみが多くなってきました。そのために、実写の撮影前に撮影をシミュレーションすることや、フルCGのシーンも簡単なオブジェクトモデルでシミュレーションすることが重要になってきました。このことをPre-Visualization プレ・ビジュアリゼーションと呼び、簡単なCGモデルやCGセットを作り、ロケーション、セット、撮影、照明などの実写の方法を検討するようになりました。そしてプレビズを使って監督、カメラマンはもとより、クライアントに対してもプレゼンテーションしています。

つまり映像の撮影前に、カメラアングル、画角、セットや 照明、背景グリーンバックなどの状況を把握し、効率良く撮影を進めるため、また絵コンテから一歩踏み込んでの撮影の手順、合成方法の検討に用いられます。カット割り、カメラワーク、グリーンバックの組み方、合成方法、編集などポスプロの技術的手法も検討することによって撮影の効率化やコストパフォーマンスを図るようになりました。

この手法は、近年のハリウッド映画などで積極的に用いられており 、プリプロダクション時に本編のほとんどをプレビズで制作しています。しかもプレビズに8か月〜12か月ほど時間をかけることもあります。

ここで、

いくつかのプレビズの事例を見ていきたいと思います。

「パニックルーム」(2002) デビット・フィンチャー監督
デビット・フィンチャーは元 ILM(Industrial Light & Magic)のアニメーター で「STAR WARS IV」「インディージョーンズ魔宮の伝説などに関わっていました。
監督作品  としては「エイリアン3」「セブン」「ゲーム」「ファイトゲーム」「ゾディアック」「ベンジャミンバトンの数奇な人生」などを手掛けています。
映画「パニックルーム」では、CGをほとんど使用しないにもかかわらず(実写の合成やカメラワーク等に用いられているが)、このプレビズの手法が使われました。全編のほとんどが事前にプレビズが作成され、監督のチェックを受け、撮影前のシミュレーションをおこないました。そのため建物の設計や撮影に使用するクレーンなどの選択、カメラレンズの画角などを事前にシミュレーションし、詳細なプレビズ映像を作り上げています。

61b64c0a-afc9-497e-b9b9-fbb6a3855826

「パニックルーム」予告篇

 

プレビズを手がけたのは ピクセルリベレーションフロント Pixel Liberation Front
IMDbhttp://www.imdb.com/company/co0064820/

Mission Impossible 3  previs

Mission Impossible 3  Bridge Attack Scene

Pixel Liberation Front, Iron Man 2, Behind the Scenes.

 

 

プレビズ会社 The Third Floor

合成のグリーンバックなどのシミュレーションを行っています

プレビズ会社HALON
“World War Z – Previs REEL” by Halon Entertainment

ハリウッドでは、プレビズの必要性が認知され、専門のプロダクションが何社も立ち上がりました。特筆すべき点は、どの会社も若い社長、スタッフだということです。
2010年5月 プレビズソサエティ(任意団体)設立 at L.A.

ハリウッドのプレビズ専門会社約10社以上が集結しました

http://www.previssociety.com/

The Third Floor
POV Previs LLC
Attitude Studio
Halon Ent.
Launch
Nvizage
Pixel Liberation Front
Proof Inc.
persistenceofvision.com
brianpohl.com

CavalryFX


CMの中でのプレビズの使われ方例です。
HP TV-CM  『Constant Change』(2009)  VFX by Digital Domain

 

Virtual Camera ヴァーチャルカメラ
プレビズを行なう時に特に重要になってくるのが、ヴァーチャルカメラと言われるカメラの考え方です。実際の撮影の時には映画用あるいはビデオカメラを使う訳ですが、プレビズではその使用するカメラの画角やアパーチャーサイズなどが重要になってきます。つまり本番の撮影をプレビズで正確に再現出来なければ意味がない訳です。

そしてプレビズ以外にも、新しいビジュアリゼーションの考え方が生まれています。

ピッチビズ Pitch-Vis

ピッチというのは、資金調達のためのプレゼンテーションのことです。そのプレゼン時に実際の映像内容が分かるようなパイロット版的を制作することをピッチビズと言います。ハリウッドでは、ピッチプレゼンのために短いパイロット版やデザインやキャラクター設定が分かるようなCGを作ることを始めています。

ポストビズ Post-Vis

プレビズの後、実際の撮影後にポストプロダクション作業が始まる前に実際に撮影した素材を使ってCG,VFX合成のシミュレーションをする。

オンセットプレビズ On Set-Vis

撮影時に同時に合成をしながらシミュレーションをする手法。
米国では、Lightcraft社が有名である。
http://www.lightcrafttech.com/
東映ツークン研究所が日本で初めて導入しています。

「パンナム」TVシリーズ(2011)

 

日本のプレビズ

シン・ゴジラ

メリットしかない! 全体のコストと余計な手戻りを削減する、北米流プリビズのお作法

『シン・ウルトラマン』のプレヴィズを考察

本日のまとめ

・プレビズは非常に有効な作業工程のひとつになりつつあります
・ただし日本とハリウッドでは認識と現状の使い方が大きく違いがあります

ハリウッドでは、当たり前のように行われるようになっていますが、日本ではスケジュール、コストの問題でなかなか行なわれていません。あるいはポスプロのCGプロダクションがコストを度外視してボランティア的に行っているのが通常です。またほとんどの使われ方は動く絵コンテ、またはラフアニメーションレベルのアニマティクスとしての運用が実情です。本来のプロダクション(撮影)のためのデータ収集、シミュレーションを行っていくことが大事になってきます。

もうひとつ、ビジュアリゼーションという観点から言えば、いろいろな業界やジャンルでのこのプレビズの考え方が必要になってくると思います。例えば、演劇、コンサート、医療、建築、工業デザインなどです。これは最近のVRの技術との連動や連携も必須だと思われます。

参考サイト